(2) 五感

しかしその日は、なんだか小さな違和感があった。。


何が違うのか判らないが、心の奥底を突かれるようなヘンな感覚である。

なんといえばいいのか・・・色がずれていると表現すればしっくりくるかもしれない。

もちろん壁紙をはじめ、ちいさな装飾にいたるまで何一つ変わってはいない。

長年に渡って陽を浴びてきたテーブルの天板もそのままである。

なのに印刷物の版が微妙にずれたように、僅かに色が滲んでいるのだ。


やばいなぁ・・・とうとう眼に来たかな?


ふぅと一息ついて、目頭を押さえた。

思えばもう五十路も近いんだから、体にガタが来はじめてもおかしくはない。

そろそろ眼鏡か・・・などと考えていると、マスターがコーヒーを運んでくる。

平日の昼下がり、店内には他に客がいなかったのでマスターは私の向かいに腰を下ろした。

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『どうしたの、疲れてるみたいだけど』

『いや、もう年だねぇ・・・だんだんポンコツになってきたよ』

『何いってんの、まだまだ若いもんにゃ負けん!ってこの前言ってたくせに』

『それはそうなんだけどね、やっぱりだんだん無理はきかなくなるよ』

『俺より三つ下だっけ?』

『うん』

『じゃ、来年で五十だ』

『実感ないなぁ・・・』

『大丈夫、あと1年我慢すりゃ・・・』


カランカラン・・

ドアベルが鳴り、顔見知りの常連客が入ってきた。


『お、いらっしゃい』


そういうと、マスターはカウンターへと戻って行く。


『よう、久しぶり』

『おう、相変わらず平日から入り浸ってるな』

『2週間ぶりだっけ、なにしてたんだよ』

『ああ、ちょっと体のメンテナンスにな』

『なんだよ、お前もガタがきちゃったクチか?』

『まあな、今年で五十になっちゃったしなぁ』

『この店は年寄りばっかじゃねえか』


笑いながらマスターが淹れてくれたコーヒーを一口啜った。

ん?

たしかに私の好きなマンデリンの味と香りだ。

しかし、これもどこか私の記憶とは違っている気がする。


『マスター、豆換えた?』

『いや、いつものだよ』


おいおい、視覚の次は味覚かよ・・・こりゃホントにどっか悪くなってるのかもしれない。


『やっぱり風邪でもひいちゃったのかなぁ・・』

『コーヒー飲んで温まったら、今日は早く帰った方がいいんじゃない?』

『うん、そうするよ』


せっかくの休日をもっと有意義に過ごしたいが、こんなときは仕方ないか。

コーヒーを飲み干して、大人しく家路につく。


アパートに戻ると、階段の下に猫がいた。




・・・続く
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by shika_monologue | 2013-03-13 18:19 | この物語はフィクションです。 | Comments(4)

Commented by のぐち at 2013-03-14 15:06 x
感想は…完結するまで控えます…(笑)。

なので、この先早めに希望♪^^
Commented by 鹿さん at 2013-03-14 18:20 x
たぶん、今月末か、来月頭には・・・(^^;
Commented by kupoa_kupa_5i7i at 2013-03-17 01:30
フィクションすか^^;
実感ないなって割には 実感がこもってまんなぁ^^v
Commented by 鹿さん at 2013-03-17 18:09 x
そこんところは実際と変わらんってことで(笑)
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