(最終回) 実感

久しぶりに、バロンがしゃべり始めた。


アシタダナ・・・


『あ、バロンか・・・そうだな、明日から入院だよ』

・・・・・

『ここ何カ月かちょっとおかしかったからな、このさい徹底的に診てもらってくるよ』

ダイジョウブダ、ナニモシンパイハイラナイ

『なんだよ、偉そうに医者みたいなこと言うなよ』

ヤッパリ、マダオモイダセナイカ・・・

『ん? どういうことだ?』

オマエタチハ・・・・・イヤ、ヨソウ

『勿体ぶりやがって・・・まあいいさ、そういうところにも慣れたよ』

・・・・・

『どうせ、帰ってきたら言うよ・・・ってことだろ?』

ソウダナ・・・

『留守中、周りのみんなに迷惑かけるなよ』

アア、ワカッテルサ


それが、バロンと交わした最後の言葉だった。


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翌日、準備を整えて病院に向かった。

当てがわれたのは、けっこう豪華な個室だ。

これなら数日間の入院生活も快適なものになりそうだと、ぼんやり思う。


最近の状況については事前に提出しているので、簡単な問診から検査は始まった。

書面を見ながら、医師がいくつか質問する。


『こちらを拝見すると、数ヶ月前から少し体調が悪いようですね』

『はい、ちょっと体がダルくてそれが抜けきらないというか・・・』

『まあそれは年数・・・いや、年齢的にも仕方ないですから』

『はあ・・・やっぱりそうですかねぇ』

『それより気になるのが味覚や視覚がズレた感じがする、ということですが?』

『そうなんですよ、いつもと同じものなのに微妙に感じ方が違うというか・・・』

『これも体のダルさと同じころからですか?』

『そうですね、だいたい同じです』

『あと、最近物忘れがひどくなったとか・・・そういうことはありませんか?』

『いや、どうでしょう・・・自分ではそんなことはないと思うんですが』

『はい、わかりました』


一週間程度の入院といっても、所詮は検査だ。

さすがに『猫と会話ができる』とは書いていない。

いや、そんなことを書いたら精神疾患で長期入院させられるかもしれない。

そんなに職場に迷惑かけられないしな・・・と考えていると、医師が思わぬ言葉を発した。


『ところで・・・最近、猫に話しかけられたことはありませんか?』

『えっ!?』

『あ、別に心配はいりませんよ、年に3~4人はそういう方がいらっしゃるんですよ』

『どういうことですか?』

『最近のものでは滅多に起こらないんですが、あなたくらいの年代の方の場合、不具合があったみたいでね』

『いや、意味が判らないんですが・・・』

『大丈夫ですよ、そういったことも今日までですから』

『私はおかしくなっちゃったんじゃないかって、ずっと思ってたんですよ!』

『落ち着いてください』

『なんなんですか! 私にも知る権利はあるはずです!!』


いったい私の体になにが起こっているのか、しかもそれを知らないのは私自身だけのようだ。

少し取り乱した私をよそに、医師たちはあわてる様子も無く何かの準備をしている。


『先生、私はどうなっちゃうんですかっ!』

『あ、ちょうど準備ができたようですね・・・何も気にすることはないですよ、すぐに終わりますから』

『せんせ・・・』


まるでスイッチが切れたように目の前が真っ暗になり、私は深い闇の中に落ちていった。


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目が覚めたのは、それから三日後のことだった。

そうだった・・・私は全てを思い出した。

ベッドの横には問診をした医師が立っていた。


『お加減はどうですか?』

『はい、なんだか頭がすっきりしたように思います』

『そうですか、それは良かった』

『先生、私はやっぱり・・・』

『思った通り、メモリー障害でした』

『それが原因だったんですね』

『はい、先日も少しお話しましたが昔の製品ではたまにこういった障害が報告されてます』

『・・・・・』

『信長の時代では身体が寿命を迎える時期なんで問題はなかったんですが、現代はそれも延びてますから』

『古いメモリーは・・・?』

『チップの一部分に焼けた跡が見られました、たぶんそれが原因だと思われます』

『はい・・・』

『データはほとんどコピー出来ましたが、ほんの少しだけ無理な個所がありました』

『その部分はどうなるんですか?』

『データとして壊れたところはどうにもなりません、今は記憶として残っているところも・・・』

『・・・・・』

『そのうちに自然に消えていくところが出てくると思います、でも99.9%は今まで通りです』

『そうですか』

『あと味覚や視覚のズレもそれが原因でしたから、あしたから元に戻ると思いますよ』

『よかった・・・あ、バロンは?・・・猫はどうなるんですか?』

『あなたのように記憶の基幹の一部が失われることは稀にあるんですが、彼らはそういった方々の監視役なんです』

『どおりで偉そうだと思いましたよ』

『今回メンテナンスも終わりましたので、このまま彼も消えると思います』

『そうですか、最後にお礼とお別れを言いたかったですけどね』

『彼のことなんですが・・・消えていくと思われる記憶の中にそのことも含まれてまして・・・』

『そのうちバロンのことも忘れちゃうんですね・・・どれくらい持つんでしょうか?』

『だいたい10日間くらいかと』

『・・・・・判りました』


入院最終日は、新しいメモリーが体になじんでいるかどうかのテストを受けた。

これも最新の製品ではまず問題はないとのことだ。

こうして私の『オーバーホール』は完了し、自宅へと戻ることとなった。


d0021258_955891.jpg


アパートに戻ると、そこにもうバロンの姿はなかった。

ただ、トイレやキャットフードなど、バロンとの生活の証は確かに残っている。


『ありがとうな・・・お前は俺を見守っていてくれたんだよな・・・』


なぜか目頭が熱くなるのを感じた。

もう必要のないものだけど、しばらくはこのままにしておこうと思う。


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こうして半月が過ぎた。

部屋にはキャットフードがあるが、猫を飼っていた記憶がない。

しかし、なぜか懐かしいような・・・ヘンな気分になる。

別に邪魔にもならないので、そのままにしているのだった。

生活はもう普段通りに戻っている。

例の喫茶店にも顔を出しては、マスターや常連客と談笑した。

馴染みの店内で、変わらぬ味のコーヒーを飲んでいる。

みんなメンテナンスのことは判っているが、誰一人として話題にすることもない。

以前のようにバカ話に花を咲かせているだけだ。


『じゃあマスター、そろそろ帰るわ』

『はいよ、気をつけてね』


カランカラン・・・

見慣れた店から出て家中に着く。

秋も深まってきて、吹く風が少しばかり肌寒い。

足早にアパートに帰ると・・・・階段の下に猫がいた。

彼はコチラをみると、ニコッと笑ったような気がする。

なんだかとても懐かしいような・・・そんな顔だった。


『なんだ? お前、今笑ったか?』

『にゃ~』

『ははは、人懐っこいヤツだな・・・そうだ、ウチにキャットフードがあるんだけど、食うか?』

『にゃ~』

『そうか、じゃついてこいよ』


そして、 ”今度は” 仲良く階段を上がっていった。




~終~



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ということで、このシリーズも最終回を迎えたワケですが・・・

皆さん、結末はご想像通りだったでしょうか?

この最終回は2話に分けるかどうか悩みましたが、どこで切っても中途半端なため

無理やりまとめてしまいました。

でもやっぱアレですねぇ・・・・物語を書くってのは難しいですね。

単純に『書く』だけじゃなく『描く』という要素もありますんで、神経使っちゃいます。

まあ面白かったんで、気が向いたらまたやってみようかな~なんて・・・(^^ゞ

そのときは来るんですかね~、自分でも判りませんが(笑)またいつか。。。
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by shika_monologue | 2013-05-15 16:53 | この物語はフィクションです。 | Comments(6)

Commented by ひま at 2013-05-15 22:08 x
ほほぉ。
そういうことでしたか。
私は霊的なものかと思ってました。

白戸家のお父さんの肛門が無いのも
こういう理由なのでは?(笑)
Commented by 鹿さん at 2013-05-16 19:25 x
そっち方面にいくとリアルになりすぎそう
だったんでヤメた(笑)

白戸家のお父さん、しっぽも機械仕掛け
だからね~(^^)
Commented by のぐち at 2013-05-18 15:53 x
お疲れ様でした…

そうかぁ、最後はそっちに行きましたかぁ。。。
予想もしなかった結末に、驚きと安堵感と、読み応えのある鹿ワールドに引き込まれて良かったですよ♪^^
考えてみれば予想出来た筈なんですけど、鹿さん=霊的なものかと、僕も勝手な思い込みも有りつつ読んでしまったので、良い意味で裏切られたのが凄く良かったです!!

えーーーと、第二弾はどんなお話なんでしょうね!?
また、期待してお待ちしていますね(爆)。
Commented by 鹿さん at 2013-05-18 18:34 x
へへへ、実は私には『SF好き』という一面もあったのです(笑)
だから『SF的』要素と『ホラー的』要素を併せ持つ『クトゥルー』が
大好きなんですよ♪ (^^)

第2弾・・・あるとしたら、今度はそっち方面かも。。
Commented by kupoa_kupa_5i7i at 2013-05-18 21:42
ばんは^^
ハッピーエンドって言うんですかね♪
ええ、お話でした!

なんだか、階段をともに上がる光景が
自然と浮かび上がってきました。


Commented by 鹿さん at 2013-05-19 08:28 x
実は最初に書き出したときは結末まで考えてないという
思いっきり見切り発車だったんですけどね(汗)
まあ根が楽天的なんでハッピーエンドっぽくなりました(^^)

てか、にゃんこ好きなんでこのまま別れちゃうのは寂しかった
・・・というか(笑)
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