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辻占い

夕方から降り出した雨が、電車の窓を濡らしている。

今日も残業終わりの疲れた親父たちが、蒸した車内の吊皮にぶら下っていた。

時計をみると、午後10時を少し回ったところだ。


定年まで、あと5年か・・・


ぼんやりと考えながら、こんな生活があと5年も続くのかと思うと余計に気が滅入る。

妻とは3年前に別れた。

こんなつまらない男だとは思わなかった・・・それが、私に掛けられた最後の言葉だった。


お互い様さ・・・


強がってみたものの、やはりこの年になっての一人暮らしは楽なものじゃない。


今日もコンビニ弁当かな・・・


あんな妻でも、手作りの夕餉だけはやはり懐かしい。

駅前のコンビニで代わり映えしない弁当を買い、会社からくすねてきたビニール傘で帰路に着いた。

一人暮らしのアパートは、駅からけっこうな距離にある。

それだけでも残業疲れの体にはこたえるものだが、ましてやこの天気だと疲れも倍増する。

雨の中いつもの道を歩いていると、見慣れないものが目に入った。


シキシマ・・・?


ガード下の暗闇にぼんやりと行燈が灯り、幟を立てた占い師が座っていた。

辻占い_d0021258_1220443.jpg


こんなところで・・・珍しいな


どうせ家に帰っても、レンジで温めた飯を食うだけだ。

すこしでもいいことが聞けたら、滅入った気分も晴れるかもしれない。

ほんの暇潰し・・・そんな軽い気持ちで占い師の向かいに腰掛けた。



『いらっしゃいませ』

『こんなところで店を出してるなんて、珍しいね』

『いえいえ、私どもはお客様が望まれるところにはどこへでも馳せ参じますんで』

『妙なことを言うね、まるで私が呼んだみたいだ』

『左様でございます、お待ちしておりました』


なんのことだか判らないが、私らしくも無くこうして立ち寄ったのは確かだ。


『まあいいや、じゃひとつ観てもらおうか』

『はい、ではさっそく・・・』

『何を観るんだい? 手相かな・・・』

『私どもが拝見するのは、お客様の魂でございます』

『魂? オーラとかそういうものかい?』

『まあ近いですね、厳密に言うと少し違いますが』

『ふーん、これまた珍しいね・・・じゃ、この先の金運とかどうだい?』

『それは判りかねますねぇ』

『それじゃ、仕事運とか・・・』

『そちらも私どもの専門外でして』

『でも占い師なんだろ? そういうのが観れないと商売にならないんじゃないの?』

『やはり、占い師に見えますか・・・』

『え、違うのかい?』

『はい、私どもに観えますのはお客様の寿命だけでございます』

『・・・・・』

『お客様の場合、6日後の午後8時までの寿命となっておりますようで』

『いやなこと言うんじゃないよ、なんでそんなことが判るんだよっ!』


私は声を荒げて、詰め寄った。


『はい、ですから私どもはこういう者でして・・・』


そういうと占い師は幟を指差した。


『シキシマってのは、あんたの屋号じゃないのかっ!?』

『こうしておかないとお客様が足を止めて下さらないので・・・本当はこちらで』


そういうと、占い師は1枚の名刺を差し出した。

怒りに震えながら目を落すと、そこにはこう書かれてあった。




死期視魔

あなたの寿命、拝見いたします




『そんな・・・』

絶句する私の目の前で、占い師の姿は不気味な笑みとともに闇の中へとかき消されていった。


辻占い_d0021258_12193374.jpg



激しくなった雨音に我に返った私は、そのとき気づいた。

ヤツと話している間、電車の音も雨の音も何一つ聞こえなかったのだ。

何も無くなった空間を見つめ、どこかホッとする自分を感じていた。


そうか、あと5年も我慢しなくていいんだ・・・



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てことで、今回はショートショートに挑戦してみました。

コレは私らしい題材、かな?(このカテゴリの1話目も霊関係だったけどねw)

長いのは頭使うんで、短く。。

でも・・・一話完結、これはこれで難しいゾ(笑)

まあコッチ方面のお話は、ショートショートのほうが描きやすいですが。


もし残りの寿命が6日間だったら・・・私なら何するかなぁ。。。

あなたは、どうする?

by shika_monologue | 2013-06-01 16:16 | この物語はフィクションです。 | Comments(8)

Commented by ひま at 2013-06-01 20:55 x
やぐっちゃんは・・・離婚しちゃいましたね。
辻ちゃんちは?

って・・・そっちの占いじゃないのね(笑)

死期がわかっちゃうのはイヤだなぁ~。
でも、わかっていた方が何かといいのかなぁ?

「あと6日しか生きられない」と言われたら
期間が短すぎて何も思いつかない。
せめて半年!
Commented by mikaoto at 2013-06-02 15:08
「笑うせぇるすまん」をちょっと髣髴とさせるストーリーで
思わず惹きこまれてしまいました。
余命6日間、、、
たぶんボクだったら自然の中でまったり猫と過ごすと思います。
美味しい蕎麦と酒肴があれば(^^)笑
Commented by 鹿さん at 2013-06-02 18:22 x
>ひまさん

半年もあったら物語になりませんがな(笑)
まあ親しい人に挨拶して、今あるお金全部使っちゃって・・・
ってとこだろうなぁ・・・(^^ゞ

辻ちゃんちは『●●の数が多い』って書いてあったね(笑)
Commented by 鹿さん at 2013-06-02 18:24 x
>mikaotoさん

ちょっと暴走族的発想をしてみました・・・(^^ゞ
パン食べてるときに包装紙をみて思いついたんですけどね(笑)

どんな人生にせよ、最後は好きなものと一緒に迎えたいですねぇ。。
Commented by kupoa_kupa_5i7i at 2013-06-02 18:33
ぐいっと 読んでしまいましたよぉ。
6日間 なんて突然言われたら生きてゆけない・・・
あ、もともと生きられないのか・・
じゃあ きっと身の回りの整理ですね どうでもいいような
ところを掃除してみたりして 落ちつかずに過ぎてしまうような

頼んであるワイン 早目に出荷してもらっと
Commented by 鹿さん at 2013-06-02 18:44 x
たぶん実際には何も思いつかないんでしょうね。。
でも逆に言えば6日後までは死なないんだから
ちょっと無茶なこともするかもしれません。
無茶なことってなんだよって言われたら・・・
思いつかないけど(笑)
Commented by のぐち at 2013-06-06 13:20 x
>パン食べてるときに包装紙をみて思いついたんですけどね(笑)

なるほど…ストーリーの思い付きとかが同じですね(爆)。
でもこのお話を読みながら、ちょっと切ない気持ちにもなりますね。。。
この主人公と自分、全く同じ様な境遇ですので(苦笑)。

怖いので、道で占い師(?)と出会っても、話し掛けない様にします(笑)。
Commented by 鹿さん at 2013-06-06 18:27 x
好きなことして6日間生きるのと、我慢して5年生きるのと
どっちが幸せなんだろうなぁ・・・なんてね。

いつもの場所にいるいつもの占い師は大丈夫かと・・・(笑)
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