カテゴリ:この物語はフィクションです。( 9 )

定員オーバー

『ねえ、けっこう怖かったよね』

『そうか? たいしたことなかったじゃん』

『でもトンネルの壁に足音響くし、あの照明の色も不気味に見えてアタシ嫌い』

『まあ心霊スポットなんて、噂が大げさだから怖く思うだけだよ』

『そうかなぁ・・・何かに見られてるような気がしたんだけどなぁ』

『バカ、そんなことあるわけないだろ』


彼女とけっこう有名な心霊スポットを訪れた帰り道、真夜中の道路を走らせる。
ドライブスルーで買ったハンバーガーを齧りながら、ついさっきまでいたトンネル
の話で盛り上がっていた。
怖がりな彼女をなだめるのは、もういつものことだ。
深夜なので他に車もなく少しスピードを出していると、突然サイレンが聴こえた。
気がつくと、いつのまにかパトカーが後ろについている。

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『前の車、脇に寄せて停車してください』

しまった、スピード出し過ぎたかな?
彼女と顔を見合わせてため息をつきながら、俺は素直に車を路肩に停める。
サイドミラーを見ると、パトカーから降りてきた警官がちょっと不思議そうな顔
をしているのが見えた。

『すいません、スピード出過ぎてました?』

こういうときは素直な態度に出た方が、心象がよくなるというもんだ。
わざと神妙な顔で見上げると、警官は首をひねりながら車内を覗いている。

『あ・・・いや、スピードはそれほど出てなかったんだけどね』

『じゃ、他に何か?』

『君たち、二人だけだよね?』

『はい、そうですけど』

『・・・おかしいな』

『どうかしたんですか?』

『いや、後ろから見たら定員オーバーに見えたんだけど・・・』

『でも、僕らずっと二人だけですよ』

『そうか、悪かったね・・・車は少ないけど、安全運転で帰ってね』

『はい、ありがとうございます』

納得いかない様子で警官がパトカーに戻り、発車するのを見送った。


『ふー、なんか判らんけど助かったな』

『ねぇ、なんか気味悪いね』

『ははは、気にするなよ・・・じゃ、俺らも帰るか』

車を出すために、ルームミラーを覗いた。
そこには・・・



見知らぬ顔が四つ、無表情に映っていた。
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by shika_monologue | 2014-05-21 20:02 | この物語はフィクションです。 | Comments(2)

辻占い

夕方から降り出した雨が、電車の窓を濡らしている。

今日も残業終わりの疲れた親父たちが、蒸した車内の吊皮にぶら下っていた。

時計をみると、午後10時を少し回ったところだ。


定年まで、あと5年か・・・


ぼんやりと考えながら、こんな生活があと5年も続くのかと思うと余計に気が滅入る。

妻とは3年前に別れた。

こんなつまらない男だとは思わなかった・・・それが、私に掛けられた最後の言葉だった。


お互い様さ・・・


強がってみたものの、やはりこの年になっての一人暮らしは楽なものじゃない。


今日もコンビニ弁当かな・・・


あんな妻でも、手作りの夕餉だけはやはり懐かしい。

駅前のコンビニで代わり映えしない弁当を買い、会社からくすねてきたビニール傘で帰路に着いた。

一人暮らしのアパートは、駅からけっこうな距離にある。

それだけでも残業疲れの体にはこたえるものだが、ましてやこの天気だと疲れも倍増する。

雨の中いつもの道を歩いていると、見慣れないものが目に入った。


シキシマ・・・?


ガード下の暗闇にぼんやりと行燈が灯り、幟を立てた占い師が座っていた。

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こんなところで・・・珍しいな


どうせ家に帰っても、レンジで温めた飯を食うだけだ。

すこしでもいいことが聞けたら、滅入った気分も晴れるかもしれない。

ほんの暇潰し・・・そんな軽い気持ちで占い師の向かいに腰掛けた。



『いらっしゃいませ』

『こんなところで店を出してるなんて、珍しいね』

『いえいえ、私どもはお客様が望まれるところにはどこへでも馳せ参じますんで』

『妙なことを言うね、まるで私が呼んだみたいだ』

『左様でございます、お待ちしておりました』


なんのことだか判らないが、私らしくも無くこうして立ち寄ったのは確かだ。


『まあいいや、じゃひとつ観てもらおうか』

『はい、ではさっそく・・・』

『何を観るんだい? 手相かな・・・』

『私どもが拝見するのは、お客様の魂でございます』

『魂? オーラとかそういうものかい?』

『まあ近いですね、厳密に言うと少し違いますが』

『ふーん、これまた珍しいね・・・じゃ、この先の金運とかどうだい?』

『それは判りかねますねぇ』

『それじゃ、仕事運とか・・・』

『そちらも私どもの専門外でして』

『でも占い師なんだろ? そういうのが観れないと商売にならないんじゃないの?』

『やはり、占い師に見えますか・・・』

『え、違うのかい?』

『はい、私どもに観えますのはお客様の寿命だけでございます』

『・・・・・』

『お客様の場合、6日後の午後8時までの寿命となっておりますようで』

『いやなこと言うんじゃないよ、なんでそんなことが判るんだよっ!』


私は声を荒げて、詰め寄った。


『はい、ですから私どもはこういう者でして・・・』


そういうと占い師は幟を指差した。


『シキシマってのは、あんたの屋号じゃないのかっ!?』

『こうしておかないとお客様が足を止めて下さらないので・・・本当はこちらで』


そういうと、占い師は1枚の名刺を差し出した。

怒りに震えながら目を落すと、そこにはこう書かれてあった。




死期視魔

あなたの寿命、拝見いたします




『そんな・・・』

絶句する私の目の前で、占い師の姿は不気味な笑みとともに闇の中へとかき消されていった。


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激しくなった雨音に我に返った私は、そのとき気づいた。

ヤツと話している間、電車の音も雨の音も何一つ聞こえなかったのだ。

何も無くなった空間を見つめ、どこかホッとする自分を感じていた。


そうか、あと5年も我慢しなくていいんだ・・・



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てことで、今回はショートショートに挑戦してみました。

コレは私らしい題材、かな?(このカテゴリの1話目も霊関係だったけどねw)

長いのは頭使うんで、短く。。

でも・・・一話完結、これはこれで難しいゾ(笑)

まあコッチ方面のお話は、ショートショートのほうが描きやすいですが。


もし残りの寿命が6日間だったら・・・私なら何するかなぁ。。。

あなたは、どうする?
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by shika_monologue | 2013-06-01 16:16 | この物語はフィクションです。 | Comments(8)

(最終回) 実感

久しぶりに、バロンがしゃべり始めた。


アシタダナ・・・


『あ、バロンか・・・そうだな、明日から入院だよ』

・・・・・

『ここ何カ月かちょっとおかしかったからな、このさい徹底的に診てもらってくるよ』

ダイジョウブダ、ナニモシンパイハイラナイ

『なんだよ、偉そうに医者みたいなこと言うなよ』

ヤッパリ、マダオモイダセナイカ・・・

『ん? どういうことだ?』

オマエタチハ・・・・・イヤ、ヨソウ

『勿体ぶりやがって・・・まあいいさ、そういうところにも慣れたよ』

・・・・・

『どうせ、帰ってきたら言うよ・・・ってことだろ?』

ソウダナ・・・

『留守中、周りのみんなに迷惑かけるなよ』

アア、ワカッテルサ


それが、バロンと交わした最後の言葉だった。


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翌日、準備を整えて病院に向かった。

当てがわれたのは、けっこう豪華な個室だ。

これなら数日間の入院生活も快適なものになりそうだと、ぼんやり思う。


最近の状況については事前に提出しているので、簡単な問診から検査は始まった。

書面を見ながら、医師がいくつか質問する。


『こちらを拝見すると、数ヶ月前から少し体調が悪いようですね』

『はい、ちょっと体がダルくてそれが抜けきらないというか・・・』

『まあそれは年数・・・いや、年齢的にも仕方ないですから』

『はあ・・・やっぱりそうですかねぇ』

『それより気になるのが味覚や視覚がズレた感じがする、ということですが?』

『そうなんですよ、いつもと同じものなのに微妙に感じ方が違うというか・・・』

『これも体のダルさと同じころからですか?』

『そうですね、だいたい同じです』

『あと、最近物忘れがひどくなったとか・・・そういうことはありませんか?』

『いや、どうでしょう・・・自分ではそんなことはないと思うんですが』

『はい、わかりました』


一週間程度の入院といっても、所詮は検査だ。

さすがに『猫と会話ができる』とは書いていない。

いや、そんなことを書いたら精神疾患で長期入院させられるかもしれない。

そんなに職場に迷惑かけられないしな・・・と考えていると、医師が思わぬ言葉を発した。


『ところで・・・最近、猫に話しかけられたことはありませんか?』

『えっ!?』

『あ、別に心配はいりませんよ、年に3~4人はそういう方がいらっしゃるんですよ』

『どういうことですか?』

『最近のものでは滅多に起こらないんですが、あなたくらいの年代の方の場合、不具合があったみたいでね』

『いや、意味が判らないんですが・・・』

『大丈夫ですよ、そういったことも今日までですから』

『私はおかしくなっちゃったんじゃないかって、ずっと思ってたんですよ!』

『落ち着いてください』

『なんなんですか! 私にも知る権利はあるはずです!!』


いったい私の体になにが起こっているのか、しかもそれを知らないのは私自身だけのようだ。

少し取り乱した私をよそに、医師たちはあわてる様子も無く何かの準備をしている。


『先生、私はどうなっちゃうんですかっ!』

『あ、ちょうど準備ができたようですね・・・何も気にすることはないですよ、すぐに終わりますから』

『せんせ・・・』


まるでスイッチが切れたように目の前が真っ暗になり、私は深い闇の中に落ちていった。


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目が覚めたのは、それから三日後のことだった。

そうだった・・・私は全てを思い出した。

ベッドの横には問診をした医師が立っていた。


『お加減はどうですか?』

『はい、なんだか頭がすっきりしたように思います』

『そうですか、それは良かった』

『先生、私はやっぱり・・・』

『思った通り、メモリー障害でした』

『それが原因だったんですね』

『はい、先日も少しお話しましたが昔の製品ではたまにこういった障害が報告されてます』

『・・・・・』

『信長の時代では身体が寿命を迎える時期なんで問題はなかったんですが、現代はそれも延びてますから』

『古いメモリーは・・・?』

『チップの一部分に焼けた跡が見られました、たぶんそれが原因だと思われます』

『はい・・・』

『データはほとんどコピー出来ましたが、ほんの少しだけ無理な個所がありました』

『その部分はどうなるんですか?』

『データとして壊れたところはどうにもなりません、今は記憶として残っているところも・・・』

『・・・・・』

『そのうちに自然に消えていくところが出てくると思います、でも99.9%は今まで通りです』

『そうですか』

『あと味覚や視覚のズレもそれが原因でしたから、あしたから元に戻ると思いますよ』

『よかった・・・あ、バロンは?・・・猫はどうなるんですか?』

『あなたのように記憶の基幹の一部が失われることは稀にあるんですが、彼らはそういった方々の監視役なんです』

『どおりで偉そうだと思いましたよ』

『今回メンテナンスも終わりましたので、このまま彼も消えると思います』

『そうですか、最後にお礼とお別れを言いたかったですけどね』

『彼のことなんですが・・・消えていくと思われる記憶の中にそのことも含まれてまして・・・』

『そのうちバロンのことも忘れちゃうんですね・・・どれくらい持つんでしょうか?』

『だいたい10日間くらいかと』

『・・・・・判りました』


入院最終日は、新しいメモリーが体になじんでいるかどうかのテストを受けた。

これも最新の製品ではまず問題はないとのことだ。

こうして私の『オーバーホール』は完了し、自宅へと戻ることとなった。


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アパートに戻ると、そこにもうバロンの姿はなかった。

ただ、トイレやキャットフードなど、バロンとの生活の証は確かに残っている。


『ありがとうな・・・お前は俺を見守っていてくれたんだよな・・・』


なぜか目頭が熱くなるのを感じた。

もう必要のないものだけど、しばらくはこのままにしておこうと思う。


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こうして半月が過ぎた。

部屋にはキャットフードがあるが、猫を飼っていた記憶がない。

しかし、なぜか懐かしいような・・・ヘンな気分になる。

別に邪魔にもならないので、そのままにしているのだった。

生活はもう普段通りに戻っている。

例の喫茶店にも顔を出しては、マスターや常連客と談笑した。

馴染みの店内で、変わらぬ味のコーヒーを飲んでいる。

みんなメンテナンスのことは判っているが、誰一人として話題にすることもない。

以前のようにバカ話に花を咲かせているだけだ。


『じゃあマスター、そろそろ帰るわ』

『はいよ、気をつけてね』


カランカラン・・・

見慣れた店から出て家中に着く。

秋も深まってきて、吹く風が少しばかり肌寒い。

足早にアパートに帰ると・・・・階段の下に猫がいた。

彼はコチラをみると、ニコッと笑ったような気がする。

なんだかとても懐かしいような・・・そんな顔だった。


『なんだ? お前、今笑ったか?』

『にゃ~』

『ははは、人懐っこいヤツだな・・・そうだ、ウチにキャットフードがあるんだけど、食うか?』

『にゃ~』

『そうか、じゃついてこいよ』


そして、 ”今度は” 仲良く階段を上がっていった。




~終~



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ということで、このシリーズも最終回を迎えたワケですが・・・

皆さん、結末はご想像通りだったでしょうか?

この最終回は2話に分けるかどうか悩みましたが、どこで切っても中途半端なため

無理やりまとめてしまいました。

でもやっぱアレですねぇ・・・・物語を書くってのは難しいですね。

単純に『書く』だけじゃなく『描く』という要素もありますんで、神経使っちゃいます。

まあ面白かったんで、気が向いたらまたやってみようかな~なんて・・・(^^ゞ

そのときは来るんですかね~、自分でも判りませんが(笑)またいつか。。。
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by shika_monologue | 2013-05-15 16:53 | この物語はフィクションです。 | Comments(6)

(5) 倦怠感

何かが大きく変わる、そんな気がした。


始まってみると、彼との同居生活も悪いものではなかった。

だがあれ以来、もう一月も何もしゃべってくれない。

いろいろ聞きたいことはあるが、こちらから話しかけても答えてはくれないのだ。

ただ私の問いかけは理解しているようで、都度『にゃ~』と返事をしてくれる。

一人暮らしでこれまでテレビしか話し相手がいなかったので、それだけでもなんだか気が紛れる。

相変わらず体調が優れないが、誰もいないよりは心強いものだ。


『そういえば、まだ名前を付けてなかったな』

『にゃ~』

『いつまでも「お前」じゃ可哀想だし・・・何か希望はあるか?』

『・・・・・』

『うーん、太郎って感じじゃないしなぁ・・・』

『・・・・・』

『トラ・・・でもないし』

『・・・・・』

『J・・・は、知り合いんちにいるし』

『・・・・・』

『なあ、どんなのがいい?』

『・・・・・』

『そういや、なにかのアニメでしゃべる猫がいたっけ・・・「バロン」だったかな?』

『にゃ~』

『気に入ったのか?』

『にゃ~』

『じゃ、バロンでいいか』

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彼がにっこりほほ笑んだような気がした。


『なぁ、バロン・・・お前あのときはしゃべってたじゃないか、あれはやっぱり俺の気のせいか?』

『・・・・・』

『たしかに風邪気味でちょっと疲れてたけどさ、猫がしゃべるなんてやっぱヘンだよな』

『・・・・・』

『でもあれからなんだか、体がダルいのが抜けきらないんだよな・・・微熱もある感じだし』

『・・・・・』

『お前、何か知ってるんじゃないか?』

『にゃ~』

『知ってるんなら教えてくれよ・・・俺、どこか悪いのか?』


トキガキタラ・・・


『やっぱり・・・お前しゃべれるんじゃないか』

それでも最初ほどは驚かなくなっていた。


ソノトキガキタラ、オシエテヤルヨ


『何だよ、教えてくれよ! 気になるじゃないか』


ダイジョウブ・・・マダ、ダイジョウブ


『そうか・・・でも「まだ」ってことは、そのうち何か起こるんだな?』

『にゃ~』

『判ったよ、こうなったら焦ったって仕方ない・・・覚悟を決めることにするよ』

『にゃ~』


それからしばらくはいつも通りに過ごした。

本調子ではないものの、日常生活に支障が出るほどでもない。

朝から仕事して、食料を買って帰宅する。

休みには件の喫茶店にも出入りしているが、バロンと同居するようになってからその頻度も減った。

思えばずっと話し相手が欲しかったのかもしれない。

相変わらずたまにしか答えてくれないが、私自身は口数が増えたように思う。


同居生活も数カ月を過ぎ、まもなく50歳の誕生日を迎えることとなった。

一般的に会社では50歳の誕生日には一週間の休みが貰え、その間に医療機関で検査を受けられる。

若いころから大人たちがそうしていたし、その年齢に近づいてからは周りの同年代の連中も同じだ。

これは国で定められていて、検査費用も無料なので負担にはならない。

私も今日、勤め先から検査の案内を受け取った。

この検査ができる医療機関は限られているようで、近くにある国立病院が指定されている。

訊いてみると、マスターも先日の常連客も同じ病院で受けているとのことだった。


休みの間の業務を同僚に引き継ぎ、とうとう明日から検査となった夜。

久しぶりに、バロンがしゃべり始めた。




・・・続く
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by shika_monologue | 2013-05-01 20:12 | この物語はフィクションです。 | Comments(5)

(4) 予感

そして・・・アパートに戻ると、階段の下に猫がいた。

さっきと同じ体勢で、まるで置物のようだ。


『よう、まだいたのか・・・ウチに帰らなくていいのか?』

『・・・・・』

『ははは、何言ってんだろうな俺は』


カエルうちナンテナイヨ・・・


『!』

『・・・・・』

『やっぱりお前なのか?』

『・・・・・』

『どうしちゃったんだ?、俺・・・なんかおかしいよな』


キヅイテナイノカ?


『何だよ、お前なんか知ってるのか?』


ソノウチ、ワカルヨ・・・


『教えてくれよ、何が起こってるんだ?』

『・・・・・』

『なあ、お前何か知ってるんだろ?』

『・・・・・』

『今度はだんまりかよ・・・』

『・・・・・』

『何なんだよ、いったい』


そう呟きながらも、猫に話しかけている自分がバカらしくなってくる。

ふと我に返って周りを見渡したが、幸い誰にも見られていなかったようだ。

そのまま部屋に戻ろうかとも思ったが、どうしても猫のことが気になった。

都会での一人暮らし、相手が猫でもいないよりはマシかもしれないな。

そんなことを考えてる自分がいる。


『帰るところがないんだったら、ウチに来るか?』

『・・・・・』

『遠慮するなよ、食い物も買ってきたからさ』


にゃ~


と一声発すると、階段を上がる私を追い越して行く。


『どうした?、猫みたいな声出しやがって』


にゃ~


『さっきみたいに喋ってくれよ、俺が言ってること判るんだろ?』


追いかけていくと、彼は私の部屋の前にちょこんと座っていた。


『やっぱり判ってるんじゃないか』

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もうそれが不思議でもなんでもないような気がした。

すでに状況を受け入れ始めた自分がいる。

部屋のドアを開けながら、これから相棒になるかもしれない彼に声をかけた。


『まあ入れよ、ゆっくりしていってくれ』


こうして私と彼の奇妙な共同生活が始まったが、このときはまだ彼の正体を何も知らなかった。

ただ一つだけ・・・


何かが大きく変わる、そんな気がした。




・・・続く
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by shika_monologue | 2013-04-13 20:22 | この物語はフィクションです。 | Comments(4)

(3) 既視感

アパートに戻ると、階段の下に猫がいた。


最近よく見かける、茶トラ模様の猫だ。

ちょっと薄汚れてるんで、この近くに住みついた野良だろう。

その割には人を怖がらないので、もともとはどこかで飼われてたのかもしれない。

この階段の下はお気に入りのようで、晴れた日には決まってここにいる。

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最初はこちらから近づいても少し距離をおいていたが、今は隣に腰掛けても逃げることはない。

ちらっとコチラをうかがったあと、また気持ちよさそうに日向ぼっこを続けていた。


『お前は気楽そうでいいねぇ』

『・・・・・』

『どっから来たんだよ?』

『・・・・・』

『・・・・・』

『・・・・・』

『なんか言ってくれよ、お前も一人ぼっちなんだろ?』


・・・ウルサイナァ


『えっ』

『・・・・・』

『今の、お前なのか?』

『・・・・・』

『んなわけないよなぁ。。』


自分自身に半ば呆れながら、階段を上がる。

部屋に戻ってベッドに腰を下ろすと、留守電のランプが点いているのに気付いた。


珍しいな・・・


再生してみると、実家からだった。

電話が掛ってくることなんて滅多にない。

ほんの少し不安を覚えながらも折り返し掛けてみると、心配したより明るい声で母親が出た。


『もしもし』

『ああ、俺だけど・・・どうした?』

『うん、別に用事があったわけじゃないんだけど・・・今日は仕事は休みかい?』

『なんだよ、急に息子の声が聴きたくなったとか言うなよ』

『ははは、いいじゃないか、そっちからは全然連絡してこないんだから』

『まあね、しょっちゅう電話してくる息子なんて気持ち悪いだけだろ』

『そりゃそうだけど私ももう年だからね、ちょっとは心配してもバチはあたらないよ』

『兄貴となんかあったの?』

『いいや、そんなんじゃないから・・・お前ももうじき50だろ、体は大丈夫なのかい?』

『ああ、いたって健康だよ・・・まあ今日はちょっと風邪気味みたいだけどね』

『どうせいいもん食べてないんだろ、こっちで採れた野菜、少し送っといたからさ』

『お、そりゃ嬉しいね、こっちじゃ野菜も高くてね』

『いつまでも若いつもりでいるんじゃないよ、そろそろガタがくるんだから』

『こっちのセリフだよ』


他愛のない会話をしながらも、こうして心配してくれる親がいることは有難い。

母親ももう80近いが、ともすれば私より元気かもしれないと思うことがある。

若いころから畑に出ていたから、体が丈夫にできているんだろう。


『じゃあね、たまにはそっちから掛けておいでよ』

『わかったわかった、お袋もあんまり無理すんなよ』


電話を切りベッドに横になった。

なんだか体がダルい。


こりゃ本格的に風邪かな?


とぼんやり考えていると、いつのまにかウトウトと居眠りをしてしまった。


気がつくと、陽がだいぶ西に傾いている。

3時間ほど眠っていたようだ。

そういえば最近、たまに昼間でも眠くなることがある。


『風邪のせいばかりじゃないか・・・』


独り言を言いながら寝ぼけ眼で冷蔵庫を開けると、お茶が切れていたことに気付いた。

おかずもないし、ついでにコンビニで何か買ってこようと家を出る。


近所のコンビニでは、ちょうど入荷したばかりの商品を並べているところだった。

ちょっとした幸運に喜びながらお茶と出来合いのおかず、それに珍しくスイーツを買う。

疲れているからか、体が甘いものを求めているような気がした。

おかげで少し重くなった荷物を提げて、早々に家路に着く。


そして・・・アパートに戻ると、階段の下に猫がいた。




・・・続く
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by shika_monologue | 2013-04-02 16:37 | この物語はフィクションです。 | Comments(4)

(2) 五感

しかしその日は、なんだか小さな違和感があった。。


何が違うのか判らないが、心の奥底を突かれるようなヘンな感覚である。

なんといえばいいのか・・・色がずれていると表現すればしっくりくるかもしれない。

もちろん壁紙をはじめ、ちいさな装飾にいたるまで何一つ変わってはいない。

長年に渡って陽を浴びてきたテーブルの天板もそのままである。

なのに印刷物の版が微妙にずれたように、僅かに色が滲んでいるのだ。


やばいなぁ・・・とうとう眼に来たかな?


ふぅと一息ついて、目頭を押さえた。

思えばもう五十路も近いんだから、体にガタが来はじめてもおかしくはない。

そろそろ眼鏡か・・・などと考えていると、マスターがコーヒーを運んでくる。

平日の昼下がり、店内には他に客がいなかったのでマスターは私の向かいに腰を下ろした。

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『どうしたの、疲れてるみたいだけど』

『いや、もう年だねぇ・・・だんだんポンコツになってきたよ』

『何いってんの、まだまだ若いもんにゃ負けん!ってこの前言ってたくせに』

『それはそうなんだけどね、やっぱりだんだん無理はきかなくなるよ』

『俺より三つ下だっけ?』

『うん』

『じゃ、来年で五十だ』

『実感ないなぁ・・・』

『大丈夫、あと1年我慢すりゃ・・・』


カランカラン・・

ドアベルが鳴り、顔見知りの常連客が入ってきた。


『お、いらっしゃい』


そういうと、マスターはカウンターへと戻って行く。


『よう、久しぶり』

『おう、相変わらず平日から入り浸ってるな』

『2週間ぶりだっけ、なにしてたんだよ』

『ああ、ちょっと体のメンテナンスにな』

『なんだよ、お前もガタがきちゃったクチか?』

『まあな、今年で五十になっちゃったしなぁ』

『この店は年寄りばっかじゃねえか』


笑いながらマスターが淹れてくれたコーヒーを一口啜った。

ん?

たしかに私の好きなマンデリンの味と香りだ。

しかし、これもどこか私の記憶とは違っている気がする。


『マスター、豆換えた?』

『いや、いつものだよ』


おいおい、視覚の次は味覚かよ・・・こりゃホントにどっか悪くなってるのかもしれない。


『やっぱり風邪でもひいちゃったのかなぁ・・』

『コーヒー飲んで温まったら、今日は早く帰った方がいいんじゃない?』

『うん、そうするよ』


せっかくの休日をもっと有意義に過ごしたいが、こんなときは仕方ないか。

コーヒーを飲み干して、大人しく家路につく。


アパートに戻ると、階段の下に猫がいた。




・・・続く
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by shika_monologue | 2013-03-13 18:19 | この物語はフィクションです。 | Comments(4)

(1) 違和感

いつもの昼下がり、いつもの喫茶店のこれまたいつもの席。

いつものようにマスターとくだらない話に興じている・・・そんな日常。

そんなに広くはない店内、行きつけの店だから張ってあるポスターの曲がり具合まで知っている。

マスターとはもう20年来の顔見知り、年が近いこともあって気が合うのだ。

まだ会社勤めをしていたころ、梅雨の蒸し暑さに負けてフラリと立ち寄ったのが出会いだった。

今ではお互いの趣味や好みのタバコ・・・いや、出身地や家族構成までなんでも話す仲だ。

聞いただけでは何が入っているのか判らないようなメニューが並んだ『カフェ』が多くなったが、

ここは昔ながらの純喫茶のようなお気に入りの空間である。

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客層はけっこう年配の人が多く、ほとんどが常連さん。

客同士もすでに気心の知れた人がほとんどなので居心地がいい。

マスター自慢のコーヒーを啜りながら、丸一日を過ごすことも少なくはない。

滅多に込み合うようなことはないが、それでも休日などは満席になることもある。

そんなときはカウンターに入って、お気に入りの席が空くまで常連さんたちと会話を楽しんだり。

そういう店を見つけられたことも、私の自慢の一つなのだ。


そんな私も会社勤めを辞めて休みが不規則になり、平日でも入り浸ることが増えてきた。

今日も通いなれた店の扉を押すと、これも聞きなれた声がいつもの調子で迎えてくれる。

やはりここにくると落ち着くなぁ・・・商店街の雑踏から離れ、座りなれた席に着いた。

カウンターの中では、すでにマスターが慣れた手つきでコーヒーを淹れている。

ちょっと濃いめが好きな私の好みも、マスターはよく知っているのだ。


しかしその日は、なんだか小さな違和感があった。。




・・・長くなりそうなので、続く(笑)


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春も近いことだし、某氏(笑)に感化されて物語を綴ってみることにしました。

短編にしようか長編にしようか、迷ったんですけど長くなりそう。。

何話構成になるかわからないけど、月1~2ペースでこのカテゴリーが登場すると思います。

まあ半分フィクション、半分ドキュメントみたいなもんですけど・・(^^ゞ

文章力やボキャブラリーを試してみるにはいいかも・・・

でも、あんま細かいところツッコまないでね(笑)
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by shika_monologue | 2013-03-01 19:56 | この物語はフィクションです。 | Comments(2)

子供の頃の写真

幼いころの写真には、いろんな思い出が詰まっています。

楽しく笑ってるもの、叱られてベソかいてるもの・・・様々です。

でも、中には思い出以外の”何か”が一緒に残ってしまう写真があるんですね。

そこにあるはずのないものが写っていたり、あるべきものが写っていなかったり。

そんな中で、写真にまつわるこんな話。。。





小さい頃、近所に住んでいた仲良し5人組。

今はもう学校も出て、それぞれ就職したり結婚したり。

住まいも離れ離れになってしまいました。

私も会社の転勤で、住み慣れたこの町から他県に移ることになったんですが。。

引っ越しの時、押し入れの隅から出てきた懐かしいアルバム。

父親が写真好きだったこともあり、子供の頃の写真が多く残ってます。

件の幼馴染みも、よく家に遊びに来ては父親のカメラに収まってました。

『あぁ、懐かしいなぁ・・・みんなどうしてるかなぁ・・・』

などとアルバムのページをめくっていると、ヘンな写真が見つかりました。

そこに映ってるのは子供時代の5人のはず。

しかしその写真だけ、写ってる自分たちが成長しているんです。

そこにいるのは今の自分の姿、他の友人たちも大人になった見慣れた顔。

『そんなバカな・・・』

でもその写真は、明らかに他と同じくらい古びています。

『不思議なことがあるもんだな・・・ん?』

少し落ち着いたころ、気づきました。

5人のうち、一人だけ歳をとっていないヤツがいたんです。

彼は中学に上がる前に、家の都合で転校していった君でした。

『なんでだけ・・・?』


同じころ他の連中から「久しぶりに集まろう」という誘いがあり、学生時代に通った

居酒屋で集合ということに。

いい機会だからこれをみんなに見せてみようと思い、写真を持って行くことにしたん

ですが。。。

懐かしい顔が並んだ居酒屋は盛り上がり、そのうち子供の頃の話に花が咲きます。

そこで私は、例の写真をみんなに見せました。

『な? 不思議な写真だろ?』

みんなも驚きながら見入っています。

『でも、だけはそのままなんだよなぁ・・・なんでかなぁ・・・』

すると、一人が静かに言いました。

『あれ? お前知らなかったっけ・・・は転校してすぐ、事故で死んだぞ・・・』


ああ、なるほど・・・

確かにこの写真は自分たちの”今”を写してたんだな・・・


子供のとき事故で亡くなった君だけは、その頃のまま時間が止まっていたんです。





写真にまつわる、不思議な物語。

不思議だけど、怖くない話。

尚、ここに登場する”私”は”鹿”ではありません。

仲良し5人組も存在しません。

なぜなら、これは私が創造したフィクションですから。

体が疲れてると、ロクなこと考えないんですよねぇ。。。


でも、ひとつだけ。

写真や絵画の中の人物等が変化する現象は・・・実際にあります。
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by shika_monologue | 2011-07-29 20:39 | この物語はフィクションです。 | Comments(3)